山田平安堂4代目 山田健太さん(3)未来志向の漆ビジネス
Luxury CEO Interview 2015.11.12
- 栗原
- いまデザインはご自身でなさっているのですか?
- 山田
- ええ、私とアシスタントの二人で 食器に関しては全部やっています。 で、今は宝飾とか少し入ってきているので、 その時には外部デザイナー使ったりしています。 まあ、これは会社の規模感かなあと 思ってるんですけど、 うちがあと5倍10倍になってくれば ひとりのデザインだけだと ワンパターン化しちゃうかなと思うんですけど、 このくらいの規模なら 一人がずーと商品作ってたほうが、 商品に筋が通ると思うんです。
- 栗原
- なるほど、それはありますね。 ところで、こちらのお店でよく出てるものは どういうものですか?
- 山田
- そうですね、シャンパンクーラーなんかは、 よく出ています。 食卓にひとつデンとあることで空間全体が ぐっとかっこよくなりますから。 そういう、ひとつで使い勝手のいいものを、 最初は薦めてますね。 まずそういうところから入っていただいて、 あとは飯碗を強力に押しているんで飯碗。 それと、敷物ですね。
- 栗原
- お敷ですね。
- 山田
- ええ。敷物も手入れが楽でいいんです。 布だとしょっちゅう 手入れしなきゃいけないでしょう。 漆器だったら拭くだけでいいですから。
- 栗原
- 確かに漆の敷物は合理的ですよね。
- 山田
- あと、これは自分が漆器屋だからそうなのか、 僕こういう硬いものと硬いものが 触れるの嫌なんですよ(と、ガラスのテーブルと 陶器をぶつけてみせる山田さん)。
- 栗原
- ああ。気が付きませんでしたけど、 確かに神経にさわりますね。
- 山田
- やっぱり漆器って音が穏やかなんでね。 敷物の漆はいいなと思ってるんですよ。 だから熱いものと敷くものは漆にしましょうよと 結構プッシュしているんで、 年々その辺のシェアは高くなってます。
- 栗原
- そうなんですね。 あと色について教えてください。 色味としては一番売れるのは黒ですか?
- 山田
- お客さんのイメージは黒か赤ですね。 でも漆って実はみんなが思ってるよりは カラーバリエーションが出せるんですよ。 漆の中に顔料入れればその色になるんで。 で、まあうちもいろいろ作ったことも あるんですけど、 買う側のお客さんにイメージがあるんでね、 やっぱり黒とか朱じゃないと、 あんまりお客さんが買われないんです。
- 栗原
- それとあとUSBを出しておられますよね。 あれは人気がありますか?
- 山田
- あれは結構出るんですよ。 まあ他のUSBにくらべれば価格は高いですけど 1個あるだけで話題になりますし。
- 栗原
- そうでしょうね。 なんかガジェットと漆の組み合わせって 意外性があっていいですもんね。
- 山田
- 次に取り組もうとしているのは、 やはり女性が身につけるものですよ。
- 栗原
- アクセサリーとか?
- 山田
- ええ。女性のものは難しいのでトライ中です。 男性だと、緻密なものとか、 評価するじゃないですか。カメラと一緒ですよね。 クラフトマンがしっかり造ってるねとか。 だからカフスとか、万年筆もよく売れるんですよ。 だけど女性はもうちょっとね、 情緒的だと思うんです。
- 栗原
- まあクラフツマンシップではないですよね。
- 山田
- そう、それで、去年一度テストトライアルで アクセサリーを入れてみたんです。
- 山田
- で、デザインは結構あり得るなと。 成り立ちそうだなと。 ただちょっとクオリティが出なかったんで、 テスト販売で一旦終了して、 いままた来年に向けて第二バージョンを ぶつけてみて、 それで一定の手応えがあったら、 もうちょっと女性マーケット、 女性の身に付けるものに取り組んでみようと。 あんまりベタなもんじゃなくて 普通にこの代官山をカッコよく歩いている女性が 本当に身につけてくれるようなものを なんとか作りたいなあというのが、 今のテーマですね。 それができれば、 もう全然漆のフィールド違ってきますからねえ。 テーマとしてはそこですね。
- 栗原
- 女性のお客様は多いけども、 それは食器のフィールドであって、 今度は新しいアクセサリーのフィールドを、 ということですね。
- 山田
- そうなんです。 食器はいっぱい買ってくださいますからね。 アクセサリーですね、来年投入するのは。 ジュエリーというのは、 まだそこまでいっていない。
- 栗原
- 私、朱の漆の椀が 使い込んでいくうちに黒が覗いてくる、 あの感じが好きなんですが、 あれは特別な塗り方をしているんですか?
- 山田
- 元来は特別じゃなくて 朱色のものっていうのは そうなるんですけど。 つまり中塗りまで黒でやって 最後上塗りだけ朱でやるって言うのが多いんで、 使っていけばちょっとずつ黒が出てくる。 でまあ、お坊さんが長い年月使ってそうなったのを見て カッコいいなと思って、 最初からそうやってちょいちょい黒を研ぎだして、 今は売ってるんです。 もちろん使っていけばそうなりますけど。 それって時間のかかる話なんで。 デザインとして今はやっている。
- 栗原
- 私も7,8年使ってようやく出てきた感じです。
- 山田
- そうですか。 それもせいぜい縁とか角とかね、 漆の乗りの悪いところだけど、 こういう平面で出るというのはなかなか難しんですね。 だからそういうところは削って、デザインとして。 まあ「ユーズド」ですね(笑)。
- 栗原
- ビンテージ加工なんですね。 今後の取組みとして、バーをされるのが大きいと 思うのですが。
- 山田
- バーはそうですね、 フィールドを変えるっていう意味では、 今まではどうしてもプロダクトの延長線上で フィールドを変えてきたんですが、 今度は空間、という意味でがらっと変わります。 だから僕自身もすごく楽しみにしているし、 絶対受けると確信を持ってスタートしています。 本当お客さんには来てほしいなあと思っていますね。 バーのアイデアのヒントになったのが、 ブルガリの展開です。 たとえばルイ・ヴィトンはレザーの世界で トップに登りつめて、そのあといろんなファッションに 行きましたよね。 ブルガリは宝飾の世界で登りつめて、 そのあと自分たちの宝飾を身につけてくれる場として ホテルを買った。 このブルガリの進化の仕方にすごい感銘を受けて こういうブランドのアプローチがいいなあと 思った、ということがあるんですよね。 だから、ホテルを持つことはないと思うんですけど 空間で体験してもらうという発想に いま向かってるところです。
- 山田
- まあ今回バーですけど、もしかしたら今後 カフェを作るかもしれないし、 レストラン作るかもしれないですよね。 もしくはどこかのレストランと組んで一室を 漆の間にして、うちは協賛して 漆を体感してもらうとか。 そういうのもいいかなあと思います。 あとホテルの1室を買い取って 漆を楽しむ部屋をつくるとかね。
- 栗原
- それ、ほしのやさんとかと組まれたら いいんじゃないですか。
- 山田
- そうそう、ほしのやさんとか。 そういうことをやってみたいなと 思うんですよ。 体験、体感しつつ、それをもちろんビジネスに どう変えていくか、考えなきゃいけないですけど。
- 栗原
- 器とかじゃなくて 空間に漆という発想はなかったので 感銘を受けました。 たしかに空間としてあった方が からだに入ってきますよね。
- 山田
- そう、もうちょっと感動が ダイレクトだと思う。 やっぱり大きい物のほうが 感動するじゃないですか。 小さい綺麗なお椀より大きいバーカウンターのほうが 人間感動するんです。 ま、これCGですけどこういう感じです。 こっちは個室ですけど。
- 栗原
- 個室はこれ畳になってるんですか?
- 山田
- 畳はね、今回、「光る畳」っていう 新しいもの投入して。
- 栗原
- へえー。
- 山田
- 畳が光ってその部屋の照明を取ろうと 思ってんですよね。
- 栗原
- わ~、それすごいですね。
- 山田
- その畳がめちゃ高いんですけど。 下から発光するんです。 まだ導入してる店舗少ないんですけど。 光る畳というのが世の中にあって、 うちの店のコンセプトにあってるなあと思って。 地面からの光で、漆の壁がこう、 浮かび上がるようなイメージでつくりたいなあと。
- 栗原
- これは本当、オープンが楽しみです。
- 山田
- 完成したら、ぜひ来てください。
- 栗原
- ええ、もちろん。 今日はどうもありがとうございました!