山田平安堂4代目 山田健太さん(2)空間へ拡げる
Luxury CEO Interview 2015.11.12
- 山田
- 実は12月にバーをオープンすることにしまして。
- 栗原
- えーっ、バーですか!! それは漆を表現するためのバーということですか?
- 山田
- ええ、で、今回は器としての漆器ではなくて 漆のあるかっこいい空間作ろうっていうテーマで。 だからカフェでもレストランでもよかったんですけど。 カフェとかレストランだとちょっと、 「オシャレ」みたいな感じになっちゃう。 「かっこいい」というとやっぱりバーかなと。 まあ12坪くらいの、そんな大きいバーじゃないですけど。 漆塗りの真っ赤なバーカウンター入れて。
- 栗原
- うわー、それかっこいいですね。
- 山田
- 壁も赤の漆で塗って、で、照明全部落として 漆の部分だけ照明当てて、 暗がりの中で、こう漆が浮き上がってきたら かっこいいんじゃないかと。 誰もが、ああ漆はかっこいいなあと 体験できるんじゃないかと思って。
- 栗原
- 使う漆でなく五感で体感する漆ですね。
- 山田
- ええ、そうです。いま、いろんなステージで漆を考えていて。 たとえば、お客様がお椀買ってくださって、 それでおしまいじゃなくて、 漆がお好きなら万年筆も提供できます、と。 そういうふうに少し、面で追えるようにしたり、 じゃあ今度は、漆の体験ができる空間を用意したり、 そういうかたちで漆との接点を増やしていきたい。
- 栗原
- なるほど。接点をですね。
- 山田
- そうやって漆に対する イメージを変えるというところに いま重きをおいているところですね、経営としては。
- 栗原
- 素晴らしい! そのバーはどちらに作られるんですか?
- 山田
- 六本木です。
- 栗原
- それ、全部自社でなさるんですか?
- 山田
- ええ、完全に自社でやります。 ぜひ取材に来てください!
- 栗原
- はい、喜んで!(笑)
- 山田
- 実はこれ、取材を受けることが目的の 店でもあるんですよ。 ただ漆の器というより漆のバーっていうと、 ちょっと取材対象になりそうでしょう。
- 栗原
- それは世の中に無いですもんね。
- 山田
- あるいは取材じゃなく、 撮影でもいいと思っていて。 なんか誰かを撮影するときにうちの空間を 活用してくれればそれだけで訴求になりますし。 だからもう、黒字にならないだろうっていうくらいに 内装にお金をかけてるんですよね。
- 栗原
- それは大変です。 メニューもご自分で決められるんですか?
- 山田
- ええ、お酒の種類は広く浅く、 いろんな人がちゃんと来れるようにして おこうかなと思ってます。 で、カウンターは値段も比較的抑えめにして 個室が少しあるんで、そっちは少し高めにして。
- 栗原
- 話は変わりますけど、漆の世界では 職人の育成って今どうなってるんですか?
- 山田
- 実はそこが一番のネックなんです。 というのも、職人さん側に、 あんまり次代を育成しようっていう 発想がないんですね。 これまでは家業だからということで 継いでたんですよ。 で、いま子供がだんだん継がなくなって、 システムが成り立たなくなってきている。 だから、うちでも 2年前から職人を雇うことにして、 最初1年くらいは、 職人のところに弟子入りさせて、 自社で育てています。
- 栗原
- 自社で育成されているんですね。 この世界って、 なにか資格のようなものはあるんですか?
- 山田
- いや、特には無いですね。 もちろん伝統工芸士のような資格は ありますよ。 作家として食べたい人は、それをとりますね。 職人は別に、 僕らはモノのクオリティで判断します。 持ってなくても持ってても関係ない。 明らかにヨーロッパはもっと 職人に対するリスペクトがあるし、 国としても システム整備されているんじゃないかと思います。
- 栗原
- ヨーロッパは、そのへんシステム化されてますよね。 それがブランド文化になっている。
- 山田
- そう。僕らは国レベルではできないにしても、 うちの中でちゃんと資格制度を作って、 ステップアップする喜びとか、 モチベーションを高めることを したいと思っています。 ま、まだ5人しか雇用できないですけど、 将来的には50人位の規模にして、 ちゃんと漆の文化が 永続的に続くようにしたいと思っています。 あと10年したら本当に 職人がいなくなっちゃうんで、 いまは本当、一生懸命投資しています。
- 栗原
- 日本の職人さんは、 なぜそういうシステム化が されなかったんでしょう。
- 山田
- 規模の問題だと思います。 日本はモノづくりが小資本でずーっと 来ちゃったからでしょう。 小さ過ぎますよね。 やっぱり海外のブランドみたいに、 ある一定の規模でね、 世界中をマーケットにしてという、 ひとつの組織になりそびれたところは あるでしょうね。
- 栗原
- 海外といえば、 いま時計なんかは、インバウンドの お客さんですごく賑わっていますが、 漆はいかがですか。増えてきていますか?
- 山田
- ええ、増えています。 欧米の人は漆の文化がないんで、 おみやげに買うという感覚。 でも中国の人は文化的に共通の土壌があるんで。 日本の漆器はクオリティが高いということが 説明しなくてもわかる。
- 栗原
- やっぱり中国からのお客さんなんですね。
- 山田
- ええ。中国の方は、 これが中国では作れないものだってわかるんで、 抵抗なく高級品を、 これはバブルで買ってるのでなくて、 ちゃんと理解して買ってくださるんです。 そういった意味で中国からのお客様が 増えるっていうのは、 いい意味でプラスですよね。 そういう、いいものが動くと、 いい職人に仕事がちゃんと出せて、 いい職人が育つという、いい循環になりますから。
- 栗原
- ハイエンドのものは、やはり中国のお客さんが 買われることが多いですか?
- 山田
- そうですね。ここ最近は、 その分がプラスに乗ってきてる感じですね。 それと日本も景気がちょっと良くなってるんで 高額品の売れ行きは良くなっていますね、 全体的に。
- 栗原
- どうなんですか。 漆のお客様って やっぱり女性が多いんですか?
- 山田
- 高額品になると 必ずしも女性じゃないですよね。 ちょっと趣味性の強いものは。 まあ数でいったら、 うちは圧倒的に女性のお客さんが 多いですけども。
- 栗原
- 海外のお客さんは、 こちらの代官山のお店でも多いですか?
- 山田
- ここはそんなに観光地じゃないので、 どちらかっていうと 在住の外国人の方が多いですね。 日本橋コレドのほうが 観光のお客さんがいらっしゃる。 あと、うちは別店舗名ですけど 成田空港にもお店があるんです。
- 栗原
- ああ、成田にも出しておられるんですね。
- 山田
- 和のセレクトショップをやってるんですけど、 そこはもう国策ですからね。 人で溢れてますよ。
- 栗原
- それはいいお話です。 そちらはいつから?
- 山田
- もう10年くらいになります。
- 栗原
- やはり一番回転がいいんでしょうね。
- 山田
- それはもう、坪効率で見たら 新宿の百貨店さんより、 さらに5割増しくらいですよ。 しかも、ただ売上がいいだけじゃなくて、 それなりに意義もあります。 というのも中級品から高級品が大きく動くんで、 作っている人にも、お金が落ちるんです。 僕の経営の基本的なテーマというか経営目標が、 お客さんに尽くす前に 「一円でも多く産地にお金を落とす」なんです。 そのために、お客さんに尽くすんですよ。 どっちかというとそっちに重心がある。
(つづきます)