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24羽のクロツグミ

Mimi 2019.08.27

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外国の詩を読んでいると、なんだか想像し難いことが書いてあることがある。
例えば、童謡、マザー・グースの中の”Sing a song of sixpence” (「シックスペンスの歌」)に出て来る、

    Four and twenty blackbirds   パイの中に焼きこめられた
    Baked in a pie.        24羽のクロツグミ

    When the pie was opened,   パイを開けたら
    The birds began to sing,    鳥たちは歌いだした

などは、その例だ。ツグミをパイの中に閉じ込めて焼いたら焦げちゃうだろうに、どうしてパイを開けたら生きていて歌いだすの? 歌は、それは王様にふさわしい料理だと締めくくる。王様って、そんな手品みたいなのが好きなの?



だが、ある時南フランスの結婚披露パーティに行って似たような事象を目撃した。
そのパーティは500人も集まる大きなパーティで、食事の後に2畳くらいの大きさのケーキが運ばれてきた。いわゆるクリームをたっぷり使った背の高いケーキではなく、こんがりと焼き色が付いた巨大なパイだ。出席者たちはその大きさにどよめく。そして、花嫁花婿がおもむろに刀のようなナイフを入れた途端、バタバタバタ、とパイから飛び出してきたのは白いハト。10羽くらいいる。急に解放された喜びからか、会場をあっちこっちに飛び回っている。そのハトの飛び回る中、賑やかなダンスパーティが始まった。

どうやって、そのパイを作ってハトを閉じ込めたのかは分からないが、ああ、これのクロツグミ版が「シックスペンスの歌」なのね、と納得したものだ。

その結婚披露宴は夕方行われたが、遠くから来た人たちの為に、親戚の人が自宅を開放して昼食を振舞った。その家は白亜の豪邸で、まず立派な門に圧倒される。ポルトガルの僧院から持って来た、とのこと。庭には、水泳の試合にも使えそうな25メートルプールがあり、その周りの一角に、ご馳走を並べて好きな物を取る趣向である。プールに直接出られるゲストルームが6個並んでいた。結婚式の出席者でゲストルームは満杯だったが、そのうちの一つを見せて貰えた。バスルームの床全部、バスタブの縁までふかふかの毛足の長い絨毯なのでびっくり。「絨毯が濡れちゃうんじゃないですか?」と聞くと、「常に床にヒーターが入っていて、お風呂に入った途端、ジャバーッとお湯が溢れ出てもすぐに乾くんですよ」とのことだった。

南フランスのプールから思い出したのがアメリカ南部、ジョージア州アトランタの話。友人のメアリさんが、姪の高校の卒業記念パーティに行って来たとメール。二つのプールの回りに200人ずつ集まった、と書いてある。えっ、姪御さんの高校にはプールが二つあるの?と書いたら、生徒の二つの家が、それぞれの家のプールを開放して、子供たちや親など関係者を呼んだのだそうだ。200人が集まれるなんてよっぽど大きなプールなのだろう。

メアリさんの書くことは、私の想像外で、説明して貰わなくちゃならないことがある。妹が病気で、ミネソタ州のメイヨー・クリニックに毎月通わなくちゃ行けないの、とメールしてきたことがある。南部のアトランタから中西部のミネソタまで通うのは、病気の人には大変ことね、と書くと、プライベート・ジェットだから、いう返事だった。

また別のアトランタの友人と話していたら、自分の家のプールにオリンピックの水球チームが練習に来た、と言う。「あなたの家にはインドアのプールがあるの?」と聞くと「アウトドアなの、だから大変なの。練習しに来たのは真冬の雪の降る日だったのよ」「ぎゃあ、外のプールでそれじゃあ、凍えちゃうじゃない」と言ったら、プールは外にあってもずっと温水に保っているのだそうだ。「だけれど、水から出ている体の部分は寒いから、あっためるために十分なブランデーを振舞ったのよ」とのこと。

エネルギーを大切に、と叩き込まれている私から言うと、外のプールを温め続けるなんて仰天ものだが、そういう生活が当然だと思っている人ばかりなので、何のてらいもなく、さらりと披露する。

24羽のクロツグミの謎から、プールの思い出に移り、思い出すまま書いてきた。

そして、悲しい思い出。私の祖母は自分の家の、泳げるほど大きい池で溺れた。その池で祖父は錦鯉を飼っていた。祖母の姿が見えなくなり、広大な敷地の中を手分けして探した末、ようやく見つかった祖母はもう亡くなっていた。錦鯉を見に行って足を滑らせたらしい。 祖父は、自分の庭の一角をサツマイモ畑にして、保育園の子供たちに芋ほり体験をさせてあげるような優しい人。

ここまで書いて来て、私は、これまで書いてきたフランス人、アメリカ人と祖父との共通点に気づいた。みんな、自分の持っているものを独り占めにせず、人とシェアすることで、人にも喜びを与えているのだ。24羽のクロツグミも、その歌が何万人、何百万人に歌い継がれてきて、王様だけの物でなくなって久しい。

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