アジサイの香り

Mimi

 梅雨が明けた。うちの庭のアジサイ、アナベルは花の色を白から薄緑色に変えてまだ咲き続けているけれど、私はアジサイの香水を箱にしまった。
 
 アジサイの香水があるのは、ローマに住むイタリア人の友人、キアラの家に滞在していた時初めて知った。私がL’Elbolario 社の石鹸やクリーム、香水を愛用しているのを知ったキアラが、そこの製品が揃っているお店に連れて行ってくれたのだ。わあ、こんなにいろいろな製品を出していたのね、と感激。特にずらりと並んだ香水は、箱の絵も瓶も素敵で、サンプルを片端から嗅いで、お気に入りの十数個を選び出した、その中の一つがアジサイの香水だ。   
アジサイA-1
 キアラによれば、この会社の香水やコロンは、自然の植物の成分を抽出して作られているとか。実は彼女もL’Elbolarioのファンだった。
 
 キアラと一緒に買ったL’Elbolario社の香水は、ずらりと東京のベッドルームの棚に並べてある。毎日季節に応じた香水を選んで身につけるのだ。以前持っていたいろいろな香水は、特に好きなものを除いて処分してしまった。お土産で貰ったり、クリスマスや誕生日のプレゼントだったりしたそれらは、くださった人たちの思い出はあるが、「わたし」を表現しないような香りで、もともと使わなかったのだ。
 
 そして、アジサイの花が美しい季節、私はアジサイの香水をつけた。アジサイってこういう香りなの?と思いながら。うちの庭のアジサイの匂いを嗅いでみたが、特に香りはしない。
 
 アジサイに香りはあるのか?だがこの会社の製品が自然の成分から作られているなら、このアジサイの香水も、単にアジサイをイメージして作られたものではないだろう。
だから、私は、この芳しい香水の香りを纏うことで、ミュシャの描くアジサイの花の冠をかぶった少女のような気分になって、梅雨の季節を乗り切った。
 
 季節が過ぎ、アジサイの香水を丸い箱にしまう時には、もとから入っていた、布で出来たピンクのアジサイの花も入れた。アジサイの香水は、L’Elbolario社のシグネチャー製品だと言うが、他の香水にはこんな造花の「おまけ」が付いていないから、この香水に対する会社の思い入れが伺われる。
 
 そして、私がアジサイの香水の次に使うのは,Fiore Dell’Onda という香水だ。Fioreは花。Ondaは辞書で調べると、波、海、泉。波の花?海の花?泉の花?
アジサイB-1
 だが、イタリアの友人に尋ねようとは思わない。私のイメージは、箱のブルーの絵にある。きれいな水の中でひっそりと出来る花のつぼみ。そのつぼみが開くとき、ポワッと良い香りの空気の粒が出来、太陽の光を受けながらきらきらと水面に昇って行く。それを集めて香水にした、と想像したい。ほら、ヴィナースだって、水の泡から出現したと言うではないか。
 
 香水の箱には、古代ギリシャの抒情詩人、Alcmaneの詩が載っている。
 Oh se cerilo, cerilo fossi, che sul fiore dell’onda で始まる詩には、わたしの勝手な解釈だと、海の色をしたカワセミが神々しく、静かにこの花の上を飛ぶ様が描かれている。
 
 海岸に打ち上げられている、ホンダワラなんかから香水が作られていたらがっかりだ。だから、私は自分の想像で作られたイメージの、神々しく、貴重な香りを纏って、この夏を颯爽と乗り切ろうと思う。

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